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千葉地方裁判所 平成3年(ワ)1223号 判決 1993年5月27日

原告

安藤貴志

被告

宗秀樹

主文

一  被告は、原告に対し、金四二〇万七五五二円及びこれに対する平成三年一〇月六日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを四分し、その三を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

被告は、原告に対し、一五七九万六四〇七円及びこれに対する平成三年一〇月六日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、交通事故により負傷した原告が、自賠法三条の運行供用者として損害の賠償責任を負う被告に対し、損害賠償を請求している事案である。

一  争いのない事実と原告の請求の内容

1  交通事故の発生

(一) 日時 昭和六三年一一月二二日午後一一時五〇分ころ

(二) 場所 千葉市誉田町一丁目四五番地の二先外房有料道路上

(三) 加害車両(以下、被告車両という。)

自家用乗用自動車(品川五三す六四五八号)

右保有者 被告

右運転者 被告

(四) 被害者両(以下、原告車両という。)

自家用自動二輪車(千葉も四七九七号)

右運転者 原告

(五) 事故態様 被告車両は、高田インター方面から平山インター方面に向けて時速約六〇ないし七〇キロメートルで走行していたが、同じ方向に先行していた原告車両に接近した。そして、被告車両の左前照燈辺りと原告車両の右側中央部分辺りが衝突した。両車両のほかには先行車両や後続車両はなく、対向車両もほとんどなかつた。

2  原告の負傷と後遺障害

原告は、本件事故により転倒して傷害を負い、右足関節可動域制限(一二級七号)の後遺障害が残つた。

3  原告は、後記争点に対する判断一の1ないし6及び五で付記するように合計一九八一万一四〇七円の損害を被つたと主張して、これから既払額として二一九万円を控除した残額の内金一五七九万六四〇七円の賠償を請求している(付帯請求は本件訴状送達の翌日からの遅延損害金である。)。但し、原告は、本件事故により治療費四四万六八七〇円(千葉県救急医療センター分八万四八八〇円、千葉市立病院分三六万一九九〇円)、転院のための輸送費三万二五〇〇円、ギブス代二万二六九六円、松葉杖代四〇〇〇円を要したが、これらの費用については、既に被告ないし自賠責保険から全額の弁済を受けている。また、右弁済のほかに、被告側から、通院交通費として三万三〇八〇円の弁済を受けている。そして、これらの支払分は、原告が控除する前記二一九万円の弁済とは別のものである。

二  争点

1  原告の損害額

2  過失相殺の可否及び程度

第三争点に対する判断

一  原告の損害額

1  治療費中原告自ら負担した分(原告の主張額は二万九四五〇円)

証拠(甲二、三ないし六の各一、二、原告本人)と弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故により、右足関節脱臼骨折、右座骨骨折、右踵骨骨折、全身打撲等の傷害を負い、昭和六三年一一月二三日から同月三〇日まで千葉県救急医療センターに入院し、同日千葉市立病院に転院して平成元年三月一一日まで入院し、同日退院したが、平成二年一〇月一二日までの間に同病院に三四日通院して治療を受けたこと、退院後の右通院治療費(診断書作成料及び診療報酬明細書作成料を含む。)中二万六四五〇円を原告自ら支払つたことを認めることができるところ、右支払分につき被告側から弁済がなされたことを認めるに足りる証拠はない。

2  入院雑費(原告の主張額は一三万〇八〇〇円)

原告は、前記一〇九日間の入院中、一日あたり一二〇〇円の割合による合計一三万〇八〇〇円の入院雑費の損害を被つたと認めるのが相当である。

3  通院交通費(原告の主張額は八万五八〇〇円)

証拠(原告本人)によれば、原告は、前記三四日間の通院中、公共の交通機関は乗換えが多いため事実上使用することができず、ほぼ毎回タクシーを使用して通院したこと、但し、人に送つて貰つたこともあること、右タクシー料金は片道一五〇〇円程度であつたことを認めることができるが、正確なタクシー料金及び実際にタクシーで通院した回数等の明細並びに送迎の際の経費関係は明らかでない。以上によれば、原告は、少なくとも通院交通費として六万八〇〇〇円(三〇〇〇円の三四日分の三分の二)の損害を被つたものと認めるのが相当である。

4  休業損害(原告の主張額は三四四万五〇〇〇円)

証拠(原告本人)によれば、原告は本件事故の一年くらい前からトラツク助手の仕事をして一日あたり五〇〇〇円程度の収入を得ていたこと、日曜日は仕事をしていなかつたこと、入院中及び前記の通院期間中はけがの状態や医師の助言により右の仕事に就労することができなかつたことを認めることができる。そして、右期間は長期間であり、この間年末年始が二度あり、そのほかに日曜日以外の休日もあるし、休暇をとることも一般的である。そうすると、原告は、約二二・六か月間に一か月二三日程度の割合による五二〇日間一日あたり五〇〇〇円の割合による合計二六〇万円の休業損害を被つたと認めるのが相当である。

5  逸失利益(原告の主張額は一〇四二万〇三五七円)

前記のように、原告には障害等級一二級七号に該当する右足関節可動域制限の後遺障害が残つたのであるが、証拠(甲七、原告本人)によれば、右後遺障害は平成二年一〇月一二日には固定したこと、原告は昭和四六年五月一二日生まれ(事故当時一七歳)の男子であり、中学卒業の学歴であること、本件事故前は前記のように仕事をしていたこと、本件事故により前記仕事はやめたこと、前記後遺障害のため、現在では、歩行時に痛みがあり、十分にしやがむことができず、自動車の運転ではブレーキを強く踏むと痛みがあり、乗り降りも何かにつかまつてしないと痛みがあること、従つて、労働能力が減少したこと、もつとも、原告は、平成四年八月からは一か月二六万円ないし二七万円の給与が得られる会社に勤務しており、右給与は同年齢の原告と同様の男子の統計上の平均給与収入を下回るものではないことなどの事実を認めることができる。右事実と原告の年齢によれば、原告は、前記後遺障害により労働能力が低下したが、その程度は、原告主張の昭和六三年度賃金センサスによる中卒男子の全年齢平均収入を基準とした場合、後遺障害固定の時(一九歳)から二〇年余の四〇歳までは一四パーセント、その後四一歳から稼働可能と認められる六七歳までは七パーセント認めるのが相当であり、中間利息控除率はライプニツツ係数を用いるのが相当である。そこで、これらにより後遺障害固定時の逸失利益の現価を計算すると、八八六万〇四二九円となる。

(四〇九万六六〇〇円×〇・一四×一二・八二一一)+(四〇九万六六〇〇円×〇・〇七×(一八・〇七七一-一二・八二一一))

6  慰謝料(原告主張額は、傷害分一八〇万円、後遺障害分二四〇万円)

前記認定によれば、後記過失相殺をひとまずおくとすると、原告の傷害の関係での慰謝料額は一八〇万円、後遺障害の関係での慰謝料額は二四〇万円程度と評価することができるものと認めることができる。

二  過失相殺

1  前記当事者間に争いのない事実と証拠(甲八、乙一、二、原・被告各本人)によれば、次の事実を認めることができる。右証拠のうちこの認定に反する部分は採用することができない。

本件事故現場辺りの本件道路は、有料道路の延長上にあるが、料金所を外れたところで自由に出入りできる場所である。右道路はアスフアルト舗装されており、片側一車線で中央線から外側線までの幅員は三・三メートル程度であるが、外側線の外側には一・四メートルほどの路側帯がある。事故現場辺りはおおむね直線状で前後の見通しは良い。そして、本件事故当時は深夜であり、交通は閑散としていた。

原告は、昭和六三年八月に自動二輪車の運転免許をとり、同年九月下旬に原告車両を買つたばかりであつた。原告は、本件事故当時は、深夜であつたが、本件道路に来て、料金所辺りまでの二キロメートル程度の間を行つたり来たりして運転の練習の様なことをしていた。そして、本件事故の時には、高田インター方面から平川インター方面に向かう車線を、時速四〇ないし五〇キロメートル程度で走行していた。

被告は、原告の後方を時速六〇ないし七〇キロメートルで走行して来たが、原告車両を前方に発見したときには、原告車両は外側線の辺りを路側帯に入るようにして前記速度で走行していたから、そのままの状態であれば接触の危険なく追い抜くことができる位置関係にあつた。そこで、被告は、原告車両を安全に追い抜くことができると判断し、そのまま前記車線の中央辺りを前記速度で走行した。ところが、被告車両がもう少しで原告車両に追い付く場所まで接近したとき、原告車両は、外側線辺りから急に右に寄つてきた。そのため、被告は、急制動をかけるとともに右にハンドルを切つて衝突を回避しようとしたが間に合わず、被告車両の左前照燈辺りを原告車両の右側面中央部辺り(エンジン部分辺り)に衝突させた。原告車両は、衝突の時、外側線から一・四メートルほど中央線寄りに入つたところにいた。原告は、衝突のときまで、後方の確認をせず、被告車両が後方から接近してくることに気付かなかつた。

2  そうすると被告は、前記のようにそれほど広くない車線で自動二輪車である原告車両を追い抜くにあたり、警笛を鳴らし、あるいは原告車両が多少右に寄つて来ても安全に追い抜けるよう本件道路の中央部分寄りを走行するなどの配慮をせず、漫然と前記車線の中央部分辺りを前記速度のまま走行した点で不注意がある。また、原告は、後方の安全を確認しないまま合図もなく急に右に進路を変更した点で被告より大きな不注意がある。そして、双方の過失割合は、原告六に対し被告四と認めるのが相当である。

三  過失相殺後の損害額

過失相殺後の原告の損害額は、原告に生じた全損害につきまず過失相殺し、これから既弁済額を控除する方法によるべきである。そうすると、前記二の1ないし6の損害合計一五八八万五六七九円のほか当事者間に争いのない損害額五〇万六〇六六円を加えた一六三九万一七四五円の四割である六五五万六六九八円から前記当事者間に争いのない弁済額二七二万九一四六円を控除した残額は三八二万七五五二円になる。

四  弁護士費用(原告の主張額は一五〇万円)

以上の認定判断によれば、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、三八万円と認めるのが相当である。

五  まとめ

従つて、原告の請求は前記三の三八二万七五五二円に同四の三八万円を加えた合計四二〇万七五五二円及びこれに対する本件訴状送達の翌日である平成三年一〇月六日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 加藤英継)

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